オリンピックや運動競技として有名な砲丸投げ、重い鉄球を投げてどこまで投げれるか競う競技です。世界で1番飛ばす選手は、1990年のアメリカ「ランディー・バーンズ」で23m12で世界記録です。日本人で1番飛ばした選手は2015年の「畑瀬聡」選手の18m78で日本記録です。オリンピック競技としても人気の競技で、陸上競技の中で最もパワーが発揮される種目でもあります。そんな世界的競技の砲丸が、ほとんど日本製というから驚きです。
「砲丸投げ」と「ハンマー投げ」の投げ方と重さと違い
砲丸投げとは、鉄球を素手で持ち肘より先の腕を伸ばして投げる競技です。グライド投法が有名ですね。ハンマー投げは、鉄球をロープで繋ぎ回転力で勢いをつけて遠心力で飛ばす競技です。
同じ鉄球を投げる競技ですが、ハンマー投げで有名な「室伏広治」氏の影響が鉄球と言えば室伏さんというくらい根付いています。
一般男子:7.260kg(16ポンド)
一般女子:4kg
高校男子:6kg(旧12ポンド=5.443kg)
高校女子:4kg
中学男子:5kg(旧4kg)
中学女子:2.721kg(6ポンド)
世界ジュニア規格男子:6kg
世界ユース規格男子:5kg
砲丸投げの鉄球の重さは上記のように、中学生・高校生・一般で異なります。
ハンマー投げの重さは下記です。
ハンマー全体(砲丸・ワイヤー・グリップ)の重さの合計は、男子が7.260キロ(16ポンド)、女子が4.000キロ(8.82ポンド)
ちなみに陸上競技における正しい表記は「砲丸投げ」ではなく「砲丸投」で、「ハンマー投げ」ではなく「ハンマー投」です。しかし一般的な呼び方としては、投げと表記した方が分かりやすいため「投げ」と表記されています。
大会では投げたい砲丸が選べる?
砲丸を投げる際に、競技場で自分が投げたい砲丸を選ぶことが出来ます。公式球として審査に合格した砲丸がいくつかあり、その中から選ぶわけですがどうやら偏りがあるようです。
日本の「辻谷工業」という会社の作った砲丸を人気で、金メダル・銀メダル・銅メダルを獲得した選手は皆同じ辻谷工業の砲丸を使っていたこともあります。
ソウル五輪から公式採用された同社の砲丸は、多くの選手から愛用され、アトランタ五輪から3大会連続で、金・銀・銅メダルを独占。「飛ぶ砲丸」の秘密である「正確な重心」は、同社の繊細な手作業でしか成し得ない。
出典:中小企業庁
1988年の韓国で行われた「ソウルオリンピック」に初めて公式球として同社の砲丸が採用されました。その際は新しい企業が初めて砲丸を出してきた、ということで誰からも見向きはされませんでした。
そして4年後の1992年スペインで開催された「バルセロナオリンピック」では、表面に指紋から得た筋を入れた独特な砲丸が好評で、たくさんの人に使われました。
1992年バルセロナでは決勝では使われなかったものの練習用の16球すべてが紛失、要するに世界へバラまかれていったらしいです。良さはわかったんでしょうね。重心が1mmズレていると飛距離で1mも違うとされているようです。投げる瞬間に手の中でぶれるらしいです。
出典:砲丸とオリンピック
評判が良かった砲丸は、大会と共に世界各国へ消えてしまいました、それだけすごいと皆が認めたのです。しかし横槍が入り、次の大会からはこのような筋入りは禁止となってしまいました。しかし筋が無くても確かな技術は、次の大会で実を結びます。
次の1996年のアメリカ「アトランタオリンピック」、2000年のオーストラリア「シドニーオリンピック」、2004年のギリシャ「アテネオリンピック」では、金メダル・銀メダル・銅メダルに入った選手が皆「辻谷工業」の砲丸を使っていました。
しかし、アテネの次、2008年の北京オリンピックでは砲丸の提供を断る。ボイコットの理由は中国に対する不信感だった。
「2004年に中国の重慶で行われたサッカーアジアカップ。中国人サポーターの日本人選手に対する罵声やブーイングは、それはひどいものでした。ただ、この時点ではまだ決めかねていました。気持ちが決定的になったのは2005年の反日デモです。日本を嫌う国に大切な砲丸を送れないと思いました」
2008年の北京オリンピックでは提供はしませんでした。そして2012年のイギリス「ロンドンオリンピック」では、砲丸を提供しませんでした。
ええ、やめました。北京オリンピックのときに、僕の代わりに日本の他の会社が、変なものを出しちゃったんですよ。僕が出さないから、これはチャンスだっていうので。それで日本製品が信用を落としてしまった。人間でも製品でも一度信用を落とすと、回復するのは大変です。
中途半端なレベルで日本製として各社が出したので、日本製の評判が落ちてしまいました。そしてもう80歳という高齢も相まって断念したそうです。NC旋盤がコンピュータ加工の主流になり、実際に発注してみると70%以上が不良品という出来栄えだったそうで、職人の手作りとは雲泥の差があります。
皆が手に取る日本製の砲丸とは?
他の会社も砲丸を作っていますが、コンピュータ制御されたもので物により個体差が出てきます。しかし「辻谷工業」は1つ1つが手作りで、音や振動などを頼りに熟練の職人が仕上げたもので、重心が球体の中央にいくように神業レベルの技術として作られています。
元々砲丸は重心が砲丸の中央にいけばいくほど、飛ぶように出来ています。重心が僅かにでもずれてしまうと飛距離が伸びなかったりと成績に影響します。そこが匠の技で世界に誇る日本製のメイドインジャパンは、世界中で高く評価されているのです。
手作りの大切さを訴えていた辻谷さんは、2015年に亡くなるまで職人であり続けました。まさに物づくり日本の鏡的な存在です。工業高校や大手機械メーカーを回って公演もされており、無償でオリンピックに提供し続けた素晴らしい職人でした。2016年のブラジル「リオオリンピック」、2020年の日本「東京オリンピック」でも作られた砲丸を見たかった。